2018年 新しい年

年末年始は日本で過ごしました。凝縮された時間の中で、大切な家族や親戚、友人や会社の先輩や仲間と会ってたくさん話し、とても思い出深く、心躍るひと時でした。

今年大事にしたいこと。

「自分が既に持っているものを生かして自分らしく生きる」

「言葉を大切に」

「基本と本質から逃げない」

「時間をかけて気持ちを育てていく」

ここのところ、自分に欠けていること、足りないことが目について、時々後ろ向きになってしまいそうでした。気づいたのですが、私は私で既にいろいろな良いものを持っている。それを生かして行こう!と思います。好きなこと、幸せを感じる時間をしっかり感じて、できることを周囲に少しずつでもしていく。努力と謙虚な気持ちも。

日本での楽しかった時間の思い出を胸に、ロンドンへ戻ります。

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ロッシーニ歌劇「セミラーミデ」~ロイヤル・オペラ

ロイヤルオペラでの上演は100年以上ぶりとなる作品。ロッシーニの長編オペラセリア。細かい音符を転がすように歌うダジリタの技法が全ての役柄で多用され(というか、ずっとそういう風に歌うべく作曲されている)、歌手にとってはたいへんな安定感とテクニックが求められて、とても難易度が高いなあ、と思います。ワグナー歌手並みの実力がないと(スタミナと技術)いけないんじゃないか…この作品が歌える歌手は多くはないように思います。

しかし今回のプロダクションは、素晴らしかったです!さすがロイヤルオペラは、満を持して最高の歌手たちを揃えていました。

主役セミラーミデを歌ったのはジョイス・ディドナート。私は初めて聴きましたが、すごいなあと思いました。本当に深いふくよかなしっかりした声で、細かい音を完璧に転がしたうえに、高音は叫ぶようなパワーで突き抜けるゾクゾクする声。例えばサザーランドのセミラーミデであったら、もっと軽いタッチだろう(技巧的にはもちろんすごいけれど)と思います。対してディドナートのセミラーミデは重い声でパワフル、完璧な歌は、無条件に心を打ちました。

メゾが男性役を歌うアルサーチェは、ダニエラ・バルチェローナ。彼女はむしろディドナートより声はすこし軽いかなと思うくらいでしたが、といってもメゾなので深くてこれまた完璧な歌。本当に安定していて、男性役の軍服姿が男前!

テノールのLawrence Brownleeは、インドの王子イドレーノの役。脇役でありますが、歌は立派な難しいアリアも連発です。彼は以前やはりロッシーニチェネレントラで聞きましたが、あれから10年余り、ますます素晴らしく危なげのない完璧な歌。

残る重要な役柄として、バスのアッスールはMichele Pertusi。代役で入りましたが立派な歌でした。もともとはダルカンジェロが歌う予定だったのが、病気のため変更。以前聞いてダルカンジェロは良かったし、この役も歌ってきていたようなので、もし変更なしで出ていたら、もっともっと凄いプロダクションになっていたかもしれないなあ。

演出はDavid Alden。オリジナルは古代バビロニアが舞台ですが、現代の中東の独裁者に置き換えている。なかなかインパクトがあります。北朝鮮を思い出させるような大きな絵の風景や、ドナルドトランプを彷彿させるような赤いネクタイの人物などが登場。

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思うのですが、ロッシーニの音楽は、音楽としてだけ聴くとちょっとつまらないような気がしてしまいます。モーツアルトのように和音が豊かではなくて、もっと音楽の作りが擬音的というかシンプルだから?

また改めて問うのは、素晴らしい歌手はどういう人たちなのか?今回は全員が本当に完璧に歌いこなして、その意味ではその時点で100点といえます。が、心が震えるような、鳥肌が立つようなことが起こるのには、さらにもう少し何かが必要なようです(今回体験させてもらったような)。声の美しさ、深さといったプラスアルファ、持って生まれた才能でもあり、鍛錬の賜物でもあるのかもしれません。歌手の皆さんに心からの敬意を送ります!

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クリスマスの行事

ロンドンに限らず欧州の冬は、日が短く曇りの暗い日々が続く。おそらくクリスマスを巡る伝統と行事は、そんな季節に人々の心を温かく明るく過ごすための知恵でもあるのでしょう。

12月に入ると、ロンドンのシティのオフィス街でも、どこもロビーにクリスマスツリーや、建物や道路にライトアップされたデコレーションで綺麗に飾られます。どれも同じものはなく、とても素敵。

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自宅近くでは、先週から今週は、生の木のクリスマスツリーが売られているのが目につきます。結構直前に買って、飾りつけするんだなあ、と思ったり。

聞くとクリスマスは家族、親戚と過ごすと話す人が多く、クリスマスディナーはチキンやターキーのローストが定番なんだそうです。

会社でも、クリスパスパーティとクリスマスランチは、この季節の大事な、皆が楽しみにしている行事。パーティは会社全体で、ブラックタイやドレスで少し着飾って昔ながらの雰囲気のあるギルドの建物で開催でした。クリスマスランチは、各部門ごとに好みのレストランを予約して。とってもお店が混んでいる様子からすると、本当にこのクリスマスランチも行事としてポピュラーで大事なんだなあ、定着しているんだな、と思います。どちらも、皆で集まってたわいもない話をしながら飲んで楽しく過ごす、ゆるりとした雰囲気の会。

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12月はそんなことで、結構ごちそうを食べる月なのだなあと実感しています。和食でなく、洋食のbig mealは、美味しいのですが、おなかも胃も少し疲れ気味かも。食事も長時間なので、結構パワーも要ります!

でも最初に戻り、やっぱりこの冬の一番辛い時期を、毎年楽しみにできるいろいろな行事やご馳走、その準備で忙しくしたり、旧交を温めたり家族で過ごしたりして、乗り越えるのは文化と伝統なのですね。これを過ぎると、少しずつ日も長くなっていきますね。

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印象派絵画〜ロンドン・ナショナルギャラリー

今日は冷え込みましたが、気持ちの良い晴天。土曜日の朝、ナショナルギャラリーに来ました。

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マネ。官僚の息子で生粋のパリジャンの洒落者だったそうです。当時流行りのキャバレーの店の女性を描いた作品。革命から100年足らずのパリの「今」を描こうとした画家。

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モネ。同じモチーフを連作する発想はそれまで西洋絵画になくモネが最初、日本の浮世絵に傾倒、影響を受けたため。新しいモノ好きで、絵の具や、筆触分割法、色の効果を科学的に取り入れたり、機関車や、それでしか行けない当時の海辺のリゾートを描いたり、等、トライしながら、同時に古来の遠近法にこだわるなど、しっかり守っているのだそうです。

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ドガ。銀行家の息子で同じく洒落者パリジャン。働く女性、労働者を描いた。ダンサーの軽やかな絵の印象が強いですが、すごく絵が上手いんだそうです。上から見下ろすような構図は西洋絵画では以前なかった手法とのこと。

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スーラ。子供の目と心でよーく見ていると色々なことがわかってくる絵。上流階級が住む中洲の対岸の岸にいる労働者階級の少年たち。

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先生のお話を聞くにつれ、印象派の画家達は、フランス革命からナポレオンの時代を経て、一足先に産業革命が始まったイギリスに追いつこうとするフランスの変化、変わりゆく様子をそれぞれの方法、視点で映しだそうとしているように思いました。革命からまだ100年足らずで様々なことが急速に変わっていった歴史なのだなあと、強く感じました。

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英国ロイヤル・オペラ「ランメルモールのルチア」

ドニゼッティーのオペラ「ルチア」を見てきました。全幕にわたって歌のメロディーもオケの音楽も、大体の歌詞の意味も憶えちゃってるくらい大好きなオペラ。昨年2016年に新演出で見て、椅子から落ちそうなくらいびっくりして半ば呆れたKatie Mitchellの演出が今年もまた!


Lucia di Lammermoor – trailer (The Royal Opera)

主役ルチアを歌ったリゼッテ・オロペサは、これまでライブで見た全てのソプラノの中で、最高のルチアでした。声に透明感あり、コロラチューラの技術も完璧、全て最高音は危なげなく、音量の微妙な強弱も聞き入るほどで、演技も見事。狂乱の場の難しいアリアも本当に素晴らしかった。拍手もブラボーもすごかったです。彼女は2008年頃NYのメトロポリタンオペラの「つばめ」でコケティッシュな召使い役、ワーグナーの指輪「ジークフリート」の森の小鳥を聞いていますが、印象に残っています。当時はもっと軽い声だったのが、深さを増して声量もしっかりして主役級にずいぶん変わってきたと感慨深いです。ずっと聞いていたい歌でした!


Why Lucia di Lammermoor is one of opera's most challenging roles (The Royal Opera)

エドガルド役のテノールIsmael Jordiは細身の優男風で声も素晴らしくナイーブな感じが良かったです。彼も今後注目したい歌手の一人だと思いました。高音が連続してものすごくしんどいと言われる最後の難曲アリア2曲も立派でした。欲をいえば、最後のアリアの高音部は、もう少し芯というか息の太さが、軽く明るい響きと共にあると良かったなあ。

エンリーコのバリトンChristopher Maltmanは、迫力ありとにかく声量がすごい。シャウト系で圧巻でした。演技も良かったです。声の印象としては、トスカのスカルピア等の悪役が合いそう。

このプロダクションはオペラ演出家としては過激なことで知られるKatie Mitchellのもので、賛否が分かれるでしょう。オーソドックスで普通のルチアを見に来た人達には、びっくりなはず。原作では一途な恋を絶たれたルチアは理性を失い、精神的にショック過ぎて気が狂って死んでしまうのですが、この演出では設定は変わり、柔に傷ついて茫然自失になる前に、意志を持つ女性として状況を変えようと行動します。でも最後は発狂するのですがその理由は原作には全くない流産。今年の舞台では変更になり、なくなっていましたが、昨年バージョンでは1幕の私の大好きな主役二人のデュエットで、なんと妊娠の伏線のシーンが本当にリアルに演じられ、びっくり仰天でした。そのようなシーンを演じながら、全く影響されずに立派に歌い切る歌手の二人のテクニックにはものすごく感心しました。

舞台は最初から最後まで2つに区切られ、 あたかも2カ所中継のように、2つの場面が展開します。通常なら、言葉で語られるだけで見えないものが、このデュアル進行の効果でビジュアル化されてくるので、本当なら歌に集中して聞き入るはずのところで、舞台の展開に気がとられちゃったりします。昨年はこれがなんとなく邪道にも思えたのですが、今回は結構面白く楽しめました。慣れたのかな?

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もしかすると今までのオペラ経験でナンバーワンの公演だった気がします。改めてこの作品は、難しいベルカント技巧と美しく情緒豊かな旋律と音楽が溶け合った歌を聴かせるオペラだと思いました。今回はルチア中心に、声と歌に重きが置かれた布陣にだったと思われ、だからこそ、斬新で革新的な演出のアクの強い演劇性にも負けず、ちょうど良いバランスで最高のパフォーマンスになっていた気がします!

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ひまわり 〜 ロンドン ナショナル・ギャラリー

ナショナル・ギャラリーでの絵画鑑賞。一度、神話をテーマにしたルネッサンス期の絵を見に来たことがありましたが、今回はもっと時代は下った後期印象派などの絵を中心に、見てきました。

ゴッホの「ひまわり」。東京にある絵より、レモンイエローで黄色が薄く明るいけれど、それ以外はほぼ全て構図など同じ。たぶん大きさも。

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ゴッホの糸杉の絵。椅子の絵。椅子の方は、共同生活を試みたゴーギャンと喧嘩別れして去った後、椅子とパイプしか残っていない、寂しさを表現した絵とのこと。

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ターナーの絵。勇姿を誇った船が、時代遅れとなり、小さな船に引かれて解体に向かう光景。ターナーはこういう世間の話題を集める、関心を引くようなテーマで多く絵を描いたのだそうです。もう一枚は、当時の新技術、蒸気機関車の絵。

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ルネッサンスルーベンス、神話画のサムソンとダリラ。サムソンの筋骨隆々とした様子や、ダリラの表情や体、後ろのお婆さんの悪人風まで、微細に書かれた秀作。

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ダヴィンチの岩窟の聖母。同じ絵が2枚あるのですが、最初のはガブリエルの手や、マリアの手が不自然だったり、キリストがどれなのか紛らわしい絵だったので発注者から断られ、書き直したとのこと。こちらの作品は、書き直し後のもの。ダヴィンチは顔などの表情、こんなにも繊細に描くのだなあ、と初めて知りいいなと思いました。

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フェルメール

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こんなに素晴らしい作品を、広々とした空間でゆっくり見られるのは本当に豊かなことですね。 また来よう。

コリンシアホテルロビーのクリスマスの飾りつけ。こちらも素敵でした!

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パリ オペラ座の夜 〜 モーツァルト歌劇「皇帝ティートの慈悲」

パリにはオペラ座が2つあり、新しくてモダンなバスティーユには過去何度か行きましたが、今日は初めて憧れのガルニエ宮でのオペラ。ネオ・バロック洋式のガルニエは、豪奢で風格がありこの世のものとは思えない壮麗なオペラハウス。芸術品だと思います。天井にはシャガールの絵があり、舞台も客席もどこも全てが美し過ぎます。

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演目はモーツァルトの「皇帝ティートの慈悲」。今日のオペラは本当に感動しました。モーツァルト最晩年の作品で(魔笛と同じ年)、華々しさはなく古典的なオペラセリアであまり上演されませんが、音楽は美しさが際立ち、たくさんのアリアやデュエットが心を揺さぶるような旋律です。心が洗われ、忘れていた心の柔らかい部分や感情が蘇るような感覚にひたりました。

今日の公演の凄さは、主たる役柄の全ての歌手が、本当にとっても素晴らしくて最高だったこと!!こんなこと、めったにない幸運です。

ティートはテノールRamon Vargasで、慈悲深く心優しい皇帝がぴったりで、歌もさすがでした。皇帝の苦悩や孤独、許しについて結構考えさせられました。「親愛からの忠誠ではなく、恐れによる忠誠ならば、そのようなものは要らない」

ヴィッテーリアはソプラノのAmanda Majeski。とっても存在感があり、冒頭の悪女ぶりから反省モードで苦悩を歌うところまで素晴らしい表現力。声もきれいで、高音から低音までしっかり。将来スターになりそうと期待いっぱい。

セストのメゾソプラノのステファニエ・ドストラックは、作曲家プーランクの親戚とのこと。悪い女性にたぶらかされてしまう若い男性のナイーブさを演じきっていました。3幕の皇帝に語りかけるアリアは繰り返しのフレーズをピアノで静かに歌うところ、モーツァルトらしい美しさに聞き入りました。

カップル役のセルビーリア(ソプラノ)Valentina Nafornitaとアッニーオ(メゾソプラノ)のAntoinette Dennefeldは、二人とも声も美しく歌もしっかり、しみじみとしながら強く訴えかけて、すごく良かったです。若い二人の瑞々しさを感じました。1幕のデュエットは、美しくて涙が出てしまいそう。。。3幕のセルビーリアのアリアも、ビッテーリアに泣いてるだけじゃだめよ、と優しく諭す内容でとてもきれい。

最高の夜でした。ガルニエのオペラハウスは、どこにいても目にするもの全てが美的で完璧で、居るだけで酔ってしまうような扇情的な空間。モーツァルトの琴線に触れる音楽、慈悲と優しさをテーマにしたオペラを、最高の歌で聞けた幸せな時間に感謝です。

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