理想の歌、感動する呼吸 〜 声楽もポップスも共通すること

オペラや歌が好きなので、you tubeで好きな作品や歌手の演奏を聞きます。素晴らしい歌手の方々が、必ずしも完璧でない演奏をしている音源から、学ぶことがあります。

クラッシックのオペラ歌手って、優雅で素敵でかっこよかったり、なんとなくイメージとしては「完璧」という感じがするかもしれませんが、実は全然違うんです。

聞いていて感動する歌は、なにより体が動き、呼吸ができているかどうか。声がきれいとか、声量があるとか、音程やリズムが正確とかは、その次(一流の方は、これも、備わっている)。これができていると、本当に自然と、恣意的でなく、心に触れるような情感や、豊かなテンポの揺れや、そういった表現が歌に出てくる。言葉も自然に柔らかく発音できる。へたうま、という言葉がありますが、呼吸ができていると、粗いようでも素晴らしい歌になります。

となってくると、特に「歌詞」ということに着目すると、呼吸や発声など、他の本当に大事なことを犠牲にするくらいなら、間違ってもやむをえない...というのが優先順位なのです。 

こちらは実力人気最高のソプラノ、アンナ・ネトレプコがまだブレイクしたばかりの頃のモーツアルトドン・ジョバンニのツェルリーナのアリア(Batti, Batti)のライブ音源。後半に微妙な呼吸のタイミングの揺らぎと音程のブレ、それに少し反応している様子、そのあとしっかり戻そうとしている感じがあります。


Batti, batti, o bel Masetto - Anna Netrebko

・次は、テノールのピヨートル・ベチャワ。ドニゼッティランメルモールのルチア第一幕の劇的なデュエットの出だしは「Qui di sposa」なのですが、その後に続く歌詞の「Dio ci ascolta...」と別の歌詞で歌いだし、結果、同じ歌詞を2回繰り返しています。勢いのある歌い方なので、動揺はそれほど出ていませんが、ほんの少し、あらら、という感じは伝わってくる。


Diana Damrau "Qui di Sposa" 08 Oct 08

・最後は、エレガントで素敵なソプラノ、アンジェラ・ゲオルギュー。華があります。ベッリーニの歌曲、Vaga luna che in argenti(優雅な月)のコンサートライブ。1番の中盤、少しだけ2番の歌詞を歌ってしまって間違えていますが、まったく動じていなくて、堂々と間違った歌詞のまま、表情も表現も完璧に続けています。


Angela Gheorghiu - Bellini: Vaga luna - recital in Los Angeles, March 2013

いずれも、優先順位は呼吸・発声。歌詞は間違ってしまったら、それは残念だけど、歌の素晴らしい表現を損なうことはしない、というのが、共通している。プロなのに、なんで。。。という印象に対しては、歌うって、それだけたいへんなことなんです!とういことかと思います。人の生身の体が楽器であることって、想像をはるかに超えた、頑張りや意志ではなくて無意識の世界。

ポップスも基本は同じ。マイクを使うので、息の量が比較的少なくていいという違いはあるけれど。逆に言うと、クラッシックの歌手の方々は大量の息をパワフルに使えなくってはいけないのですね。

どうしたら体が動くか。不随意筋や丹田を動かす。歌手の方々は、スマホやパソコンはやらない、いつも明るくおおらかで、細かいことは気にしない、たくさん眠り美味しいものを食べてくよくよしない、という共通点があると思います。いい呼吸をして、自然な声を出すには、本当はそういう環境がいいのでしょうね!

ここしばらく少し歌がお留守になっている私です。仕事に、ゴルフ(これらは脳を緻密にものすごく使う)に対して、歌は、ぼーっとして頭で考えない面も大事。なかなか両立は難しい取り合わせなのかもしれないなあ。