英国ロイヤル・オペラ~モーツアルト「ポント王のミトリダーテ(Mitridate, Re di Ponto)」

久しぶりに、とても新鮮で好奇心が掻き立てられるオペラでした!

このオペラは、モーツァルトが14才の時に作り、1770年に初演され成功したものの、その後2世紀にわたり上演されることがなかった由。今もオペラハウスで上演される機会はめったにない。なぜか、、、作品として良くないかと言えば、全然そんなことないと思いました。むしろ水準が高すぎて、条件がそろわないと上演できないのではないかと。

・一幕すぐに、ソプラノ・アスパージアは、壮大なアリア「迫りくる運命から(Al destin, che la minaccia)」を歌わなくてはなりません。この曲は、私がこれまで聞いたオペラのあらゆる曲のなかで、ずば抜けて技巧的で難易度が高いびっくりするような曲でした。細かい粒の音符を転がすコロラトゥーラ、低音部から高音部への驚異的なジャンプ、しかも、アクロバティックなすごさだけでなく、レガートの豊かなフレーズにも対応しなくてはならない。更に最高音も「魔笛」の夜の女王並みと聞こえました。聞きごたえがあるうえに、なかなかいい曲でもあります。実は、このオペラでは、出てくる登場人物すべてに、同じレベルの難易度の歌が期待されている。当時は、厳しく鍛錬されトレーニングを積んだ歌手たちがいたので、成しえたのだと思います。これはなかなか、常人ではできる技ではないと思います。


Al destin, che la minaccia (Aspasia)

・初めてカウンターテナーをオペラ内で聞きましたが、発声的に今まで体験したことない、未体験ゾーンでした。男性が、裏声で女性の音域を出して歌うのですが、とにかく今まで聞いたことがない声!偉大なソプラノ、マリア・カラスが深くて重い声で、時々どすの聞いた歌声を聞かせますが、それが常時発せられているような印象でした。すごい。

・演出次第で、いろいろに見せられる面白さ。古いオペラなので、後の時代の作品のようにオーケストラと歌が一体となって情感を醸すのではなく、オーケストラの伴奏、台詞部分、感情や思いを表現する劇的な歌の部分が、くっきりとわかれて連なる初期のシンプルな形式。次々と役の歌手が出てきて、歌って、退場する、というあっさりといえば、あっさりの枠組みであるがゆえに、演出はいかようにも。今日の舞台は、コミカルさを意識していました。手品のように鳩が突如現れたり、ソプラノ・イズメーネがソロで歌う場面は、バックダンサー2名をしたがえて、昭和のアイドルのようにパントマイム調のおどりつきで歌っていました。ミトリダーテ王も、自分の出番のアリアの前に不思議な手振り腰つきで踊っていましたし、衣装も全体的に華やかでありつつ、かなり奇妙でした。この真面目なオペラを、こんな風にアレンジできるんだ!という驚きがあります。

歌に関しては、すぐれた歌手を勢ぞろいさせなくてはならず、声量も、しっかりした・美しい声も、低音も高音も必要で、技術的にも超超難易度が高いオペラ。だからこそ、無条件に聞いていると感動します。生身の人間が限界に挑んで歌っている世界。歌はそもそもスポーツみたいなところがありますが、これは、オリンピックのすごい選手のプレーを見ているような、人間技ではない声に触れる瞬間です。これに比べると、ヴェルディプッチーニがなんと易しくみえてしまいます。

また14才のモーツアルトが、男女の四角関係を題材に、これだけの豊かで美しい音楽を作り上げたことはすごいです。

オペラの楽しみはいろいろあり、作品そのものの音楽としての素晴らしさ、演出の斬新さや驚き、衣装の豪華さや面白さ、演じる歌手のスター性や演技力、何はともあれ声、ドラマとして思わず引き込まれるストーリーや人間模様などなど。古くて知られない作品ですが、だからこそ触れてみると予想外で新鮮で「面白い!」のでしょうね。

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