プッチーニ歌劇「トゥーランドット」~英国ロイヤル・オペラ

プッチーニの最後の作品で壮大なグランドオペラ、「トゥーランドット」。初めて聴く・見るオペラハウスでのライブ、とても楽しみにしていましたが、心の底からああなんて素晴らしいオペラなんだろう、と感動のひと時でした。

蝶々夫人」は日本が舞台、この「トゥーランドット」は中国が舞台。音楽には東洋の雰囲気が色濃く取り入れられています。トゥーランドット姫は皇帝の娘で、誰もを虜にしてしまうような美しさと威厳を持っている。先祖の姫が、かつて侵略されて受けた恥と死から、世の全ての男性に対して復讐を誓っている。自分は誰のものにもならない、と。一方で、この国の法では、美しいトゥーランドットに求婚し、3つの謎を解いた勇敢な者は結婚できるが、解けなければ命を落とす決まりで(おそろしい首切り役人がいる)、これまで数多くの高貴な王子たちが犠牲となってきた。オペラのあらすじとしては、カラフという若者がトゥーランドットに一目ぼれしてしまい、この謎に挑戦して見事これに勝ち、最後には結ばれるというもの。ここでポイントなのは、カラフは勝って力で勝ち取ることをよしとせず、愛や感情がなく男を嫌っているトゥーランドットに迫って、「好き」「恋愛」の感情を呼び起こして本当にラブラブになる、というところ。

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・本当にあらゆる面で、ゴージャスなオペラ。オーケストラは金管が厚く華々しく、リズムも躍動感があり、重厚。舞台は中国の宮殿を舞台に、赤や黄色、緑、ピンクに金銀に白と、鮮やかな衣装と装置で圧巻。登場人物も多く、非常に個性があり、情緒的な部分も多分に表現されている。声の面では、主役のトゥーランドット姫はソプラノ最高峰の難役で、高音もあるし、ドラマチックな深みのある強い声がないと、全くつまらないという、たいへん要求水準が高い役。カラフもしっかりした声のテノールでパワーが必要、華を添える忠実な女奴隷役のリューは可憐で純粋でありながら、歌は深い声でしみじみと聴かせるとても難しくて感動的なアリアがある。あとはコーラスがあるオペラは、迫力があって至福の気持ちになります。いいですねえ。

・一番カーテンコールの拍手が大きかったのは、リュー役のソプラノ、ヒブラ・ゲルマーワでした。彼女のアリアは2曲とも、最高に美しく心でしみじみと感じる素晴らしさでした。これまで生で聞いたソプラノの中でも、一番かもしれません!ネトレプコのようにふくらみのある声ですが、もっと情感が表現されている気がします。もっともっと聞きたい、と思わせてくれました。

トゥーランドット姫役のクリスティーネ・ゲルケも、素晴らしかった。声量も抜群、深みとパワーのある歌は安定していて完璧でした。威厳のある立ち居振る舞いや、男嫌いでカラフを避けるアクションなども高貴なお姫様という雰囲気で、そういった演技をしながら、あれだけ歌えることがすごい。お化粧が、若干歌舞伎役者風(?)でしたが、中国のお姫様なので許せる範囲でした。この役は、難しさの割りに喝采を得られにくいように思います。ドラマチック過ぎて、感情を出さない役どころなので、高い水準のパフォーマンスをしても、ドラマの中としては感動を生み出しにくいんだと思います。

テノールのカラフ役はアレキサンドルス・アントネンコ。良かったです!この役は、ボリュームとパワフルさかなと思いました。有名なアリア「誰も寝てはならぬ」も、危なげなくでした。最後のvinceroはかなり短く切っていたので、少し残念だったかな。ただ、テノールの人に聞くと、この曲はつらいんだそうです。後半で高音が続き持ちこたえたところで、最後の最後で超高音で締めくくるのが、半端ではないそうです。生で聞いて、パヴァロッティでは、この役は声が軽すぎてきっと物足りなかっただろうな、と思ったりしました。

・落ちぶれた盲目の王ティムール(バス)、トゥーランドットに仕える3大臣ピン・ポン・パンも、すごく良かった。脇役まで聴かせるオペラ、こんな幸せなことないです。ピン(バリトン)が結構中心役で、コミカルだったり、ノスタルジーを情感深く歌ったり、細かい早いリズム感のあるメロディーもあって、アンサンブルとして面白く、聞きごたえあり。

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あっという間の3時間でした。観客も大拍手で、私もそうでしたが、女性は涙している方々もたくさん。私としては、このオペラのこのロイヤルオペラの舞台は、「人の愛する気持ち」というのがテーマかと思いました。 もちろん、カラフがトゥーランドット姫に愛する気持ちを芽生えさせるエピソードが王道なのですが、他にも、ひそかにカラフに思いを寄せるリューの報われない恋心と、命を差し出し自分がすべてを失ってまでも、カラフを勝たせようとする無垢な犠牲の愛。ティムールが、それまで一緒に旅をしてきたリューを失って、悲しみにくれ、その亡骸を大事に大事に運んでいく姿に感じる愛情、などなど。愛にはいろいろな形があり、どれも大切なもので素晴らしいことなんだと思いました。本当に良いオペラでした~!

最後に、カラフ役はスター歌手たくさんいらっしゃれど、やはりこの方、フランココレッリではないかなと思います。

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