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ワーグナー 歌劇「ニュルンベルグのマイスタージンガー」〜英国ロイヤル・オペラ

ロイヤル・オペラ上演、ワーグナーの「マイスタージンガー」を見てきました。土曜日の16時開演。明るいうちのオペラは久しぶり。春ですね~。

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会場に行くと、他のオペラと、ワーグナーとでは、観客が違うと感じます。ワーグナーが際立って他の作曲家とは異なっていて、他のオペラは行かないけど、ワーグナーは行く、というファン(ワグネリアン)が数多くいるからと思います。

・ハッピーエンドで、コミカルな要素も織り込まれているオペラ。前奏曲は一度は聞いたことがあるような有名な曲。今回のロイヤル・オペラの演出は、16世紀ドイツの親方たちのギルドを、ジェントルマンズ・クラブに置き換えて、モダンな要素を取り入れ、洗練された感じで華やか。

・今回は主役の歌のマイスター・靴屋の親方ザックスはブリン・ターフェル。スター性は際立っていて、舞台で輝いていました。

・このオペラでは、歌とか芸術とかについても触れています。歌のギルドの親方たちは、規則厳守が大事で、そこから外れた歌は認めない。ザックスは、規則から外れていても、良いものは良い、ルールは時に見直さなくてはいけないんだ、と言う。歌についていえば、正しい音程を少しも違わず保つこと、長さや表現を楽譜の指示通りにすること、そのために、極端なことはせず節度を維持すること、等。これは大きな誤解で、いい歌は、そんな細かいことにはとらわれない、自由でのびのびとした呼吸でとても人間的なもの。また当時、ワーグナーの音楽自体が「新しいもの」でしたから、それへの理解を求める思いも込められていたのではないでしょうか。歴史を感じますね。

・今回は想定外でしたが、全曲通して2回ほろりとしてしまいました。

1回目は、2幕の最後。マイスターのザックスの指導のもと、歌のコンテストに出場する若き騎士ヴァルターが、エヴァへの愛の思いを最高の美しさで表現した歌を作り上げる場面の後、歌の誕生を祝う場面と、それに続く5重唱。ここで、ザックスは、ひそかに思いを寄せていた若いエヴァへの思いを、永遠の諦めと共に心のなかで噛みしめる。「本当は、自分がこの歌を彼女に歌いたかった」と。エヴァの感謝の言葉も素晴らしかった。


Die Meistersinger von Nürnberg: "Selig, wie die Sonne" (Quintet)

あと1回は、歌のコンテストでヴァルターが歌う、先ほどのエヴァへの愛の歌(Prize song)。これは最高に美しいです。メロディも歌詞も。私の好みとしては、これは思い入れたっぷりスローに歌うより、テンポどおりさらっと歌う方が、より曲の素晴らしさが出るように感じます。また涙が出てしまいそう・・・。


Ben Heppner "The prize song" Die Meistersinger von Nurnberg

ワーグナーのオペラが独特と思うのは、歌とオーケストラが一体となっていること。多くのオペラは、歌が主役でオーケストラが伴奏・脇役というパターン。歌手が「歌う」ことで劇的な表現を担う。一方のワーグナーでは、歌手は音階に乗せて言葉を伝えるのだけれども、感情表現など劇中の人物の「心」を伝えるのは、かなりの部分歌ではなくオーケストラにも任されている。声と言葉と管弦楽が混然一体となって様々に繰り出される音楽が聞き手に届き、悩み、憂い、喜び、情熱、諦め、気高い決断や温かさ等、「ああ、ザックス(主役)は今こんな風な気持ちなのね」と心が感じ、揺さぶられる。

・結果として、オーケストラは楽曲としても複雑で凝ったものになっていて、編成も厚く、重厚で芳醇。でも歌手は、これと溶け込む(張り合う?)ことになるので、深い声とボリュームがないと全く物足りないし、長時間を歌いきるマラソン・ランナーのスタミナが必要。ワーグナー歌手が限られているのは、こういった事情があります。正しい発声でないと歌いきれない。でもだからこそ、ぎりぎりのところで生み出される素晴らしい声、奇跡のパフォーマンスに触れられるのだと思います。

 ・ワーグナーのオペラは長いのですが、こちらは作品中で最長、休憩含めて6時間近く。どうもワーグナーの鑑賞の場合、長いので、幕間の休憩は皆さんお弁当・サンドイッチなど持参し、半ばピクニック状態になるのは定番のようです(これはNYのメトロポリタンオペラでもそうでした)。

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とっても長いのですが、たくさんのお楽しみが詰まった、ワーグナーのオペラ。見る方も相当パワーが要りますけれど、また是非行きたいです。