英国ロイヤル・オペラ「ランメルモールのルチア」

ドニゼッティーのオペラ「ルチア」を見てきました。全幕にわたって歌のメロディーもオケの音楽も、大体の歌詞の意味も憶えちゃってるくらい大好きなオペラ。昨年2016年に新演出で見て、椅子から落ちそうなくらいびっくりして半ば呆れたKatie Mitchellの演出が今年もまた!


Lucia di Lammermoor – trailer (The Royal Opera)

主役ルチアを歌ったリゼッテ・オロペサは、これまでライブで見た全てのソプラノの中で、最高のルチアでした。声に透明感あり、コロラチューラの技術も完璧、全て最高音は危なげなく、音量の微妙な強弱も聞き入るほどで、演技も見事。狂乱の場の難しいアリアも本当に素晴らしかった。拍手もブラボーもすごかったです。彼女は2008年頃NYのメトロポリタンオペラの「つばめ」でコケティッシュな召使い役、ワーグナーの指輪「ジークフリート」の森の小鳥を聞いていますが、印象に残っています。当時はもっと軽い声だったのが、深さを増して声量もしっかりして主役級にずいぶん変わってきたと感慨深いです。ずっと聞いていたい歌でした!


Why Lucia di Lammermoor is one of opera's most challenging roles (The Royal Opera)

エドガルド役のテノールIsmael Jordiは細身の優男風で声も素晴らしくナイーブな感じが良かったです。彼も今後注目したい歌手の一人だと思いました。高音が連続してものすごくしんどいと言われる最後の難曲アリア2曲も立派でした。欲をいえば、最後のアリアの高音部は、もう少し芯というか息の太さが、軽く明るい響きと共にあると良かったなあ。

エンリーコのバリトンChristopher Maltmanは、迫力ありとにかく声量がすごい。シャウト系で圧巻でした。演技も良かったです。声の印象としては、トスカのスカルピア等の悪役が合いそう。

このプロダクションはオペラ演出家としては過激なことで知られるKatie Mitchellのもので、賛否が分かれるでしょう。オーソドックスで普通のルチアを見に来た人達には、びっくりなはず。原作では一途な恋を絶たれたルチアは理性を失い、精神的にショック過ぎて気が狂って死んでしまうのですが、この演出では設定は変わり、柔に傷ついて茫然自失になる前に、意志を持つ女性として状況を変えようと行動します。でも最後は発狂するのですがその理由は原作には全くない流産。今年の舞台では変更になり、なくなっていましたが、昨年バージョンでは1幕の私の大好きな主役二人のデュエットで、なんと妊娠の伏線のシーンが本当にリアルに演じられ、びっくり仰天でした。そのようなシーンを演じながら、全く影響されずに立派に歌い切る歌手の二人のテクニックにはものすごく感心しました。

舞台は最初から最後まで2つに区切られ、 あたかも2カ所中継のように、2つの場面が展開します。通常なら、言葉で語られるだけで見えないものが、このデュアル進行の効果でビジュアル化されてくるので、本当なら歌に集中して聞き入るはずのところで、舞台の展開に気がとられちゃったりします。昨年はこれがなんとなく邪道にも思えたのですが、今回は結構面白く楽しめました。慣れたのかな?

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もしかすると今までのオペラ経験でナンバーワンの公演だった気がします。改めてこの作品は、難しいベルカント技巧と美しく情緒豊かな旋律と音楽が溶け合った歌を聴かせるオペラだと思いました。今回はルチア中心に、声と歌に重きが置かれた布陣にだったと思われ、だからこそ、斬新で革新的な演出のアクの強い演劇性にも負けず、ちょうど良いバランスで最高のパフォーマンスになっていた気がします!

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