プッチーニ歌劇「蝶々夫人」~英国ロイヤル・オペラ

オペラの中で、おそらく世界的に一番人気があって、どの歌劇場でもチケットがあっという間にsold outするのが、このプッチーニの「蝶々夫人」ではないでしょうか。日本の長崎を舞台に、落ちぶれた士族の娘蝶々さんが、結婚したアメリカ人駐留軍人のピンカートンがアメリカに帰ってしまった後も信じて待ち続けるのですが、米国人の妻を娶り捨てられたと知った時に「名誉を持って生きられないなら、名誉を持って死すべし」と、自ら命を絶つ、というお話です。


Madama Butterfly Trailer 2017 (The Royal Opera)

・この話は、私が過去何度か鑑賞した限り、女性観客が泣いてしまうオペラの筆頭です。なぜかというと、蝶々さんが本当に一途に、信じた夫の帰りを微塵も疑うことも待ち続けている様子があまりに純粋過ぎること(年の頃は20歳くらい)。そして、最後ピンカートンとの間に生まれた物心もつかない男の子を、彼とその妻に引き渡す決意をしたうえで自分は自決をするのですが、最後の息子との別れの場面が、それはそれは感動的な歌で、切ないんです。


Opolais: «Con onore muore», Madama Butterfly. G. Puccini

 これは私が好きな、NYのメトロポリタンオペラの演出。通常生身の子役が舞台に出てきますが、これでは、文楽を織り交ぜたモペットで子供を演じています。これが、棒立ちの本物の子供より、ずっと表情や仕草がリアルでぐっとくるんです。

・今回ロイヤル・オペラでは、蝶々さんをErmonela Jahoが演じました。3幕とも出ずっぱりの歌い続け、基本的にはソプラノの中でも深くて重めの太い声(音域が低いので)が求められる難役ですが、見事でした!誰でも知っている有名なアリア「ある晴れた日に」の最初のところは、静かに、高い空の上の雲にかすかに届くような、壊れもののように細い柔らかい音で歌いだし、途中では待ち続ける決意を本当に叫びのように強い声で歌い、そのどちらもが素晴らしかった。

・アメリカ人のピンカートンは、本当に悪い奴の役どころですが、テノールとしてはこちらも、太くて強い声を下の音域から高音まで響かせて(息の量が半端じゃない)、聞きごたえがありました。タイプとしては、ロベルト・アラーニャみたいな声が適役でしょうか。

・私はプッチーニがこの作品で日本人の良い面、精神性を本当によく表現していると思います。登場する日本人達の奥ゆかしさ(ピンカートン他のアメリカ人と対照的)。蝶々さんの歌詞に出てくる「私たちは、さりげないもの、ささやかなもの、静かなものを大事にするんです」という言葉。蝶々さんが喚き散らしたりして修羅場にならず、静かに身を引く決意を語る場面。「名誉を持って生きられないなら、名誉を持って死すべし」という生き方。プッチーニのこの後の作品のトゥーランドットは中国が舞台ですが、それとの比較でも、日本の描写はかなりニュートラルで敬意を以て描かれていると思います。そういった純粋さ、真面目さといったところに、観客も引き込まれ感動するのじゃないかと感じます。(日常生活では、そんな風に潔くばかりもいられないので)

・この点で、蝶々さんに忠実に付き従う女中のスズキは、日本の母のような、懐深く主人を見守り泣いたり喜んだり祈ったり、本当に温かい人物として描かれています。なんだか懐かしい気持ちになります。

・音楽としては、プッチーニワーグナーの影響を受けているそうです。たしかに、この蝶々夫人では、立派に歌った歌手へ拍手をする暇がない。つまり歌が切れたところで歌手を喝采するような構成というよりは、音楽が切れ目なく続き、ワーグナー的に歌とオーケストラが混然一体となって、登場人物の感情や思いを音楽として表現しているのですね。

今回は、オペラの前にCovent Gardenのスペイン・バスク料理のEneko at One Aldwychというお店でプリシアターのディナーをしてから観劇しました。お料理も、雰囲気も、お店のスタッフもにこやかで、なかなか良いお店でした。お話も弾み、楽しい時間でした!

またまた重量級のオペラでしたが、とてもよかったです。舞台もシンプルで、日本のたたずまいや情景が感じられる演出でした🍘🌊🍡

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トマトの前菜

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ベジタリアンな豆とキノコのメイン

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